組合ポータル掲載155施設の公式サイト・予約導線・OTA依存を全件調査
私たちは島根県の雲南・津和野で、宿「若槻」の立ち上げと運営に携わっている。自社施設だけでなく、山陰の宿泊事業者が直販を伸ばすために何が必要かを考える基礎資料として、県内宿泊施設のWebサイトと予約導線を調べた。本レポートはその結果をまとめたものである。
要旨
島根県旅館ホテル生活衛生同業組合の公式ポータル「しまねの宿ねっと」掲載の全155施設(県内の旅館・ホテル営業許可373施設の約4割に相当)について、公式サイト・予約導線・OTA掲載状況を1施設ずつ調査した。
・全体の43%は、自社サイトからオンライン予約を受けられない。電話かOTA(楽天トラベル・じゃらん等)に頼り、自社サイト上に予約の受け皿を持てていない。
・楽天トラベルとじゃらんの両方に掲載している施設は66%。販売はOTAに乗っている一方、直販の受け皿が細い。さらに、オンライン直販を持つ施設の22%は、その予約エンジン自体がOTA直営(じゃらん・楽天提供)のものである。
・モデル推計では、OTA手数料は155施設合計で年約10.5億円。1施設あたりの単純平均は年約680万円となる。
・30%は、機能する公式サイトを持たない。公式サイトがあっても、現行水準のデザイン・実装にある施設は約2割にとどまる。
調査対象は、島根県旅館ホテル生活衛生同業組合が運営する公式ポータル「しまねの宿ねっと」の宿マップ全21エリアに掲載された宿泊施設155件である。サンプルは抽出せず、掲載されている155施設すべてを調べた。2026年7月に、弊社の独自調査として、各施設の掲載情報・公式サイト・予約導線・主要OTA4社(楽天トラベル、じゃらんnet、Booking.com、一休.com)の掲載状況を1施設ずつ確認した。
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| 母集団の取り方 | 施設数 | 本調査のカバー率 |
|---|---|---|
| 旅館業法の営業許可施設(旅館・ホテル+簡易宿所+下宿) | 890 | 約17% |
| うち「旅館・ホテル営業」区分 | 373 | 約42% |
| 観光庁 宿泊旅行統計調査による事業所ベース推計(参考) | 610 | 約25% |
出典:厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度末(2025年3月31日時点)、観光庁「宿泊旅行統計調査」2024年12月分。許可施設数は休業中の許可残存分を含むため、実際に稼働している施設数より大きく出る。観光庁統計はサンプル調査に基づく推計値。
本調査の155施設は、組合の公式ポータルに掲載されている施設の全数であり、県内の「旅館・ホテル」クラスの施設の約4割をカバーする。組合非加盟の施設・民泊・簡易宿所の多くは含まれないため、県内宿泊業全体の悉皆調査ではない。この点を踏まえたうえで、島根県の宿泊業のWeb・直販の現在地を示す標本として十分な規模と考える。
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| 公式サイトの状況 | 施設数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 公式サイトあり | 108 | 70% |
| 公式サイトが閉鎖・移転等により閲覧できない | 39 | 25% |
| 公式サイトの掲載なし | 8 | 5% |
| 計 | 155 | 100% |
3割の施設は、Web上に自社の情報発信の拠点を持っていない。閲覧できない39件の多くはサイトの閉鎖や移転とみられ、実際に機能している公式サイトの比率は7割という数字よりさらに低い可能性がある。
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| 実装水準(サイト保有108施設) | 施設数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 現行水準(スマートフォン対応・現代的な実装) | 23 | 21% |
| 汎用テンプレート(Jimdo・旧WordPressテーマ等の雛形) | 36 | 33% |
| 旧世代(スマートフォン非対応・テーブルレイアウト等) | 31 | 29% |
| 判定不能 | 18 | 17% |
判定は、スマートフォン対応の有無や実装の世代といった客観的な指標に基づく弊社の独自調査による。デザインの好みの問題ではなく、6割超のサイトに何らかの刷新余地があることは確かといえる。宿泊予約の起点がスマートフォンに移って久しい中で、スマートフォン非対応のサイトが3割残っている。
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| 予約導線(サイト保有108施設) | 施設数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 外部予約エンジン(別サービスの予約画面に遷移) | 76 | 70% |
| 自社完結(自社ドメイン内で予約が完了) | 12 | 11% |
| 電話のみ(オンライン予約の導線なし) | 12 | 11% |
| OTAへのリンクのみ(予約ボタンが楽天・じゃらん等へ遷移) | 7 | 6% |
| 不明 | 1 | 1% |
155施設全体でみると、67件、43%は自社サイトからオンライン予約を受けられない。サイトを持つ施設に限れば81%が何らかのオンライン予約を備えているが、自社サイト経由で予約できるのは全体の88件、57%にとどまる(外部予約エンジン利用を含む。自社ドメイン内で完結する施設に限れば12件、8%)。
電話予約は、問い合わせ対応、空室確認、転記、確認連絡といった内部業務を伴う。本調査では、その業務負担をOTA手数料とは分けたモデル推計として扱う。
オンライン予約を受けられる88施設が、どの予約エンジンを使っているかを集計した。
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| 予約エンジン(オンライン直販88施設) | 施設数 | 運営会社・特徴 |
|---|---|---|
| 489ban(予約番) | 20 | 株式会社キャディッシュ(岐阜県高山市)。月額固定型(13,000円〜)・成約手数料0%。地方の旅館組合経由の販売網を持つ |
| チェーン・グループ共通エンジン | 13 | 東急ホテルズ、東横イン等の大手チェーンや宿泊グループの共通予約システム |
| じゃらん ホームページダイレクト | 10 | 株式会社リクルート(じゃらんnet)が宿泊施設の公式サイト向けに提供する予約エンジン |
| R-with | 9 | 楽天トラベルが提供する公式サイト向け予約エンジン。無料だが楽天トラベルへの在庫掲載が利用条件 |
| 宿さがし.com | 7 | 株式会社Liberty(静岡市)。独立系の小規模宿向け予約システム |
| DYNA IBE(旧Direct In) | 5 | DYNATECH(旧ダイナテック、2025年にバリューコマースが吸収合併)。月額7,500円〜 |
| 宿研予約システム(やど研) | 5 | 株式会社宿研。独立系の宿泊Web集客コンサル会社 |
| tripla | 4 | tripla株式会社(東証グロース上場)。月額+宿泊売上の3%の成約手数料型 |
| RESERVA | 3 | 株式会社コントロールテクノロジー。業種横断の汎用予約システム |
| 地域共同予約サイト | 3 | 観光協会・観光局等が運営する地域共同の予約システム |
| タビチャット | 3 | チャット型の予約エンジン |
| その他・個別サービス | 6 | 宿シス、hotel-story、手間いらず、CheckInn 等 |
上の表で注目すべきは、リクルート(じゃらん)のホームページダイレクトと楽天トラベルのR-withを合わせた19施設(オンライン直販の22%)である。これらは宿泊施設の公式サイトに設置する予約エンジンをOTA自身が提供しているもので、無料または低コストで使える一方、OTAへの在庫掲載が利用条件になっている。
施設から見れば「自社サイトで予約を受けている」形だが、予約システムの基盤・顧客接点のデータはOTA側にある。無料で直販導線を持てる利点は確かにあり、これを否定するものではない。ただ、直販の目的が「OTAに依存しない自前の販売力と顧客基盤を持つこと」にあるなら、その予約エンジン自体がOTAの提供物であるという構造は、一度立ち止まって考える価値がある。
料金は2026年7月時点の公表情報・業界記事に基づく。非公表のサービスも多く、契約条件により異なる。
最大シェアの489banをはじめ、外部予約エンジンの多くは月額固定型であり、OTAに比べればコストは軽い。ただしいずれも県外のベンダーであり、予約の瞬間に自社ドメインの外へ遷移するため、サイトで作った印象が予約画面に引き継がれず、顧客データも自社に残りにくい。これは月額の多寡とは別の課題である。
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| OTA | 掲載施設数(155件中) | 掲載率 |
|---|---|---|
| 楽天トラベル | 114 | 74% |
| じゃらんnet | 111 | 72% |
| Booking.com | 57 | 37% |
| 一休.com | 30 | 19% |
楽天トラベルとじゃらんの両方に掲載している施設は103件(66%)。国内2大OTAへの併載が標準形になっている。一方、Booking.comの掲載は4割弱にとどまり、インバウンドの受け皿という観点では開拓余地が残る。
サイト保有108施設のうち、OTAに複数掲載しながら自社のオンライン直販を持たない、あるいは直販導線が実質機能していない「依存度・高」の施設は26件(24%)。適度に使い分けている「中」が70件(65%)で最多だが、その多くも予約の過半はOTA経由とみられる。
調査で得た施設別の客室数・推定ADR・OTA依存度をもとに、155施設が年間に支払う予約関連コストを試算した。
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| 項目 | 年間推定額 | 備考 |
|---|---|---|
| 宿泊売上(室料ベース) | 約155億円 | 客室数×島根県の年間客室稼働率54.2%×推定ADRの積み上げ |
| OTA手数料(モデル推計) | 約10.5億円 | OTA経由売上に手数料率12%を適用 |
| 外部予約エンジン費用 | 約0.2億円 | 月額固定+一部成約手数料 |
| 電話予約の対応コスト(モデル推計) | 約0.6億円 | 1件15分×仮定した実効時給で換算 |
前提:稼働率は、観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間確定値の島根県全体54.2%を使用。ADRは各施設の掲載プラン価格からの推定値。チャネル構成はOTA依存度の判定区分に応じて仮定(依存度・高=OTA経由75%等)し、OTA手数料率は12%に統一した。本試算は公開情報と仮定に基づく概算であり、各施設の実支払額ではない。稼働率の出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年年間確定値)」。
155施設の推計総額を施設数で割った単純平均は、1施設あたり年約680万円。客室数の多い施設の影響も受けるため、個別施設の負担額をそのまま示す数字ではないが、島根県内から外部OTAへ流出する手数料の規模を示している。
20室・ADR16,650円(調査中央値)・稼働率54.2%・OTA比率55%の旅館を想定する。室料の年商は約6,600万円、OTA手数料は年約430万円。ここで予約の20ポイントをOTAから自社直販に移せた場合、手数料の削減は年約160万円と試算できる。
直販は手数料の削減だけではない。顧客の連絡先が自社に残るため、リピート予約を自社への直接予約として受けられる。OTAのプラン規約に縛られない柔軟な商品(連泊割、地元向けプラン、記念日対応等)を作れる。サイト刷新と直販導線の整備にかかる投資は、規模にもよるが、手数料の削減効果だけでも数年で回収が視野に入る水準にある。
前章の構造を自社で変えようとする場合——公式サイトの刷新や、自社予約の仕組みの導入——に、活用しうる公的な支援制度を整理しておく。
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| 制度 | 補助率・上限 | 現況と予約システムへの適用可否 |
|---|---|---|
| 令和8年度 全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業(観光庁、収益・生産性向上区分) | 1/2・上限1,500万円/施設 | 「宿泊予約システム 等」が補助対象デジタルツール例として公式に明記されている。ただし一次公募は終了し、二次公募は「申請状況をみて検討」とされ実施未定 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 従業員規模により750万〜8,000万円 | 第7回は2026年7月31日に受付終了。第8回は8月中旬公募開始、9月中旬申請受付開始、10月中旬締切の予定。省力化・自動化への直接貢献の説明が必要で、サイト刷新単体では対象になりにくい |
| 小規模事業者持続化補助金(第20回) | 2/3・ウェブ関連費は上限30万円 | 受付は2026年11月5日〜12月15日17:00。ウェブサイト関連費は単独申請不可・上限30万円 |
| デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金) | 通常枠で1/2(条件により2/3) | 事務局登録済みの既製ツールのみ対象。オーダーメイド開発は対象外。インボイス枠等の別枠は補助率が異なる |
いずれも採択・交付決定が保証されるものではなく、交付決定前に発注・契約した経費は原則として対象外となる。申請主体は宿泊事業者自身である。活用する場合は、公募時期と着手時期の設計が重要になる。
私たちは、島根県の雲南・津和野で宿「若槻」の立ち上げと運営に携わり、公式サイト、予約、宿泊管理の仕組みを自分たちで整えてきた。本調査では、宿の運営側が日々向き合う予約導線と手数料の課題を念頭に、県内施設の現状を整理した。
山陰で宿泊需要を広げるには、各施設が自分の言葉で魅力を伝え、自社で予約を受けられる状態を増やす必要がある。今回の調査からは、その基盤がまだ十分でないことと、整備によって地域に残る収益を増やせる余地が見えた。
自社施設の運営と実装で得た知見は、同じ地域で宿を営む事業者にも役立てたい。今後も調査を続け、その結果を公表する。本レポートへのご意見や、自施設の状況についてのご相談は、下記の連絡先までお寄せいただきたい。